Foliage67という分割キーボードを設計含め一から作りました。
他の予定の兼ね合いや去年から丸一年作業を止めていたこともあり、構想も含めるとここまで三年半掛かってしまいましたが...。 この春から作業を再開し、細かな改善点はもう少しありますがやりたい要素をある程度盛り込んで一区切りがついたのでここで記事にしておきます。
作ったものはいわゆる65%に分類される分割キーボードで次のような特徴があります。
ご覧のようにスペックで見ると特別な機能や大きく目を引く特徴は何もありません。最近はトラックボール搭載も流行っていますがそれもありません。 しかし端的に言うと、このキーボードは自分の状況に最適化させた上で自分が欲しい機能や特徴が全て入ったタイピングに集中することを志向したキーボードです。
元々ErgoDoxが流行った頃から分割キーボードに興味はありました。しかしErgoDoxは親指周りなどのサイズ感もあり中々手を出していませんでした。
そんな中手軽に分割キーボードを試せる選択肢として Mistel BAROCCO MD770を見つけそれをしばらく使用していました。 MD770は市販されているという点や比較的オーソドックスな配列であることも相まって分割キーボードの良さを気軽に体験出来てとても良かったです。
しかしある程度使っているといくつか気になる点が出てきました。
スペースキーの外側のキーをMacにおいてCommandキーとして使っていましたが、スペースキーが長いことでCommandキーを打つたびに親指が内側にある程度握り込む形になってしまいます。 自分はコマンドランチャーの起動にCommandキーダブルタップをアサインしておりCommandキーをかなり高頻度で打つのでこの親指の握り込みがかなり気になりました。
2020年頃だと自作キーボードも既に流行っていたので、自分の理想に合うようなキーボードがあるかなと探しましたがドンピシャのものは案外見つからず。 自作問わず多くのキーボードでよく見られるキースイッチの側面が露出しているケースやデザインも個人的に好きになれませんでした。
どうせ自作キーボードを使うなら全てが満たされたものを使いたい。そして、これは完全に理屈抜きですがいわゆるメーカー製造のような質感や見た目のものを作りたいとなったのが、自分で設計するに至った背景です。
いくつかのキーボードはオープンソースで基板設計や回路設計も公開されているので、Raspberry Piその他で基板を触っていた経験もあり何とかなるだろうと踏んでいました。
自分の公私でのパソコンの使い方では外付けキーボード無しでMacbookProのキーボードだけで作業することも多いので、冒頭で記載したように一般的なRowスタッガードをベースにしました。配列の違いやその切り替えはすぐ慣れるとも言われていますが、それでもシームレスに違和感なく切り替えることを重視しての結果です。
コンパクトさとのせめぎ合いでバッククォートキーはかなり変則的な位置にありますが、反射的に押すことが多いEscキーを左上に置くことを優先しました。
Cherry MXスイッチでありながら極力高さを抑えることも重視しました。ケース手前側の底面から天面までの高さは17mmになっています。これによって自分の手のサイズであればパームレスト無しでも気にならず打鍵出来ています。
1, 2年前の半導体 供給不足の兼ね合いもありますが、高さを抑えるためにもProMicroを使わずRP2040を直接実装しています。当初は簡単に実装するためにATMega32U4のProMicroを使っていましたがマイコンを表面実装するよう変更した際にRaspberry Pi Picoの流れによってRP2040が流行りだしたので、それに乗っかる形でATMega32からRP2040にしました。
またUSB-Cケーブルを背面ではなく左右から出している理由ですが、自分はデスク上でケーブルが極力見えないようにするためにキーボードのケーブルを手前側に逃がしてデスク裏面から後ろに這わせているということをやっています。そのために左右からUSB-Cケーブルを出すという形にしました。
Bluetooth接続に関しては充電や接続の管理が煩わしいので有線接続のみに割り切りました。Bluetooth接続が将来欲しくなった時も何らか外付けで対応するつもりです。
キースイッチ側面が覆われたいわゆる市販のキーボードらしいものを作ろうとなると、肝になるのはケースの設計です。 当時、Pekasoさんの「3Dプリントで自作キーボードのケースをつくる本」という電子書籍が出ていたのでこれを大いに参考にさせてもらいました。 この書籍ではFusion360を使ってのケース設計の考え方の基本が押さえられており、とてもありがたかったです。
最初は設計したケースの試作をDMM.make などに発注しようかと調べましたが、その価格帯を見てコスト面で何度もトライアンドエラーはできないと考え、流行り始めていたのもあり2021年に3万円程度の3Dプリンタを購入しました。成果物の後処理などが簡単そうなことを重視して光造形方式ではなくFDM方式のものを選びました。
自宅で手軽に3Dプリント出来るようにするというこの判断は大正解でした。 ソフトウェアと違いハードウェアの設計から試作までとなるとリードタイムはどうしても長くなるので、これを自宅で完結できるようにすることは非常に効果がありました。
ケースに収めることで見た目の良さはもとより、やはり打鍵音が落ち着いた音になるのが嬉しいポイントです。
3Dプリントケースでも設定やフィラメントの選定をある程度突き詰めれば、自分で使う分には十分きれいなものが作成できてひとまず作ったキーボードを1年以上は常用して満足していました。 そして色々調べていくと個人でCNC切削加工を依頼することも可能は可能であることを知り、金属ケースで作ることとしました。
作ってみた結果として、金属ケースは見た目や質感の良さもさることながら、その重量によってタイピングの際の安定感やそれによる使い心地が増したのが使ってみて感じた大きなメリットでした。 これは金属ケースのメリットとしてよく言われているものですが、実際に体感すると予想以上の違いです。 分割キーボードだとその重量増加の恩恵は一体型キーボードで言われているものよりかなり小さくなるのではと危惧していましたが、試してみた印象としては分割キーボードでも期待以上の重量による安定感でした。
あまり狙った名前を付けるのも苦手なので、家の近くにあるイチョウの木からこのキーボードには元々Ginkgo67という名称を付けていました。
しかし構想からここまで3年以上という期間が災いして、その間にGinkgoという名前を持ったカスタムキーボードが出てきてしまいました。
これは地味にショックで、由来に深い意味があるわけではないですが命名するとやはり愛着が湧きます。新しい名前を考えるには苦労しました。 植物関連の流れで言葉を紡ぐキーボードから連想して、葉や群葉を意味するFoliage67と命名しました。この名前も今ではとても気に入っています。
見た目のディテール含め概ね満足行く段階まで作ることが出来ましたが、ケース内のクッションフォームについては簡易的に市販のスイッチフォームを使ったり大まかにPORONフォームを入れるなどしているため最適化していきたいです。
また、キーボードそのものの改善ではないですが打鍵音を収録したYoutube動画の公開もしていきたいところです。
このキーボード設計の背景や特徴からも分かるように、以下のような方にオススメのキーボードでもあります。
もしこのキーボードの購入や使用に興味をお持ちの方はインタレストチェックにご回答ください。